プレゼントを贈る方も気を使うだろうし、今年は家族だけで食事しようよ」
「そうね。素敵なレストランを探しておくわ」
そんな会話をしたものの、数日前には近しいスタッフがなんとなく怪しいそぶりを見せ、
なるほど、きっと数名が集まってクラッカーでも鳴らしてくれるのかな?
とまた気づかぬフリをしながら迎えた2月1日。僕の53歳の誕生日。
その日はイスラム国の暴挙に揺れる世界のニュースに絶望し、そんな日に誕生日を迎えたことが申し訳ない気分だったが
53年前の母と父は、世界で一番幸せだったと信じ、母の位牌に向かって手を合わせ「ありがとう」とつぶやいた。
今年に入ってから美樹さんのライブの準備等でなかなか家族揃って食事に出かける機会もなかった。
グリーンのタータンチェックのタキシードジャケットに黒のニットタイ、タキシードパンツに着替えて気持ちを切り替える。
定刻通りに到着したタクシーの助手席に乗り「レストランはどこ?」と聞いても「ピカデリー」だよ、としか答えぬ女子二人。
「さて今夜はお祝いのディナーだからランチを我慢したから腹ペコだぞ!」と上機嫌なバースデー・ボーイ。
黄金のイルミネーションが美しいHarrodsを越え、冷たい冬の空気似合うロンドンの街並みを抜け、Green Parkへ。
すると思いもよらぬ場所でタクシーは止まった。ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツだ。http://www.royalacademy.org.uk/
予想もしなかったシチュエーションに「え?この中にレストランなんてあるの?」と驚くバースデー・ボーイ。
建物の端の小さな入り口の扉を開けると「ミスター・ホテイ?」とクロークボーイ出迎えてくれた。
コートを預け静かな細くて薄暗い廊下を歩く。
「レストランはこの奥にあるのかな?」と従業員に訊いても、ただニコっと微笑むだけ。
一つ目の部屋を通り越し、二つ目の部屋を過ぎようとして中をちらりとみた瞬間、サプライズは成功した。
そこには80人ものロンドンの仲間たちが、その夜の仕掛け人として僕を待ち構えていてくれたのだ。
14歳の時、群馬の高崎という町でロックンロールと出会ったその頃から僕は
『夢見るロンドンボーイ』だった。
BOØWYのベルリンレコーディングの帰りに初めてロンドンを訪れたのは1985年。
あれから30年の月日が過ぎたということになる。
初めてのロンドン滞在時はヴィヴィアン・ウエストウッドのワールズ・エンドを目当てに、キングスロードを何往復しただろう。
もちろんその頃はヴィヴィアンに行っても買えるのはソックスくらい。空っぽの財布に涙目の僕はレコード会社のディレクターやプロデューサーから数万円を借り、古着屋で革ジャンを買った。
脱いだらそのままの形で倒れないくらい硬かったが、当時の僕には世界一かっこいい自慢の革ジャンだった。
会場で懐かしい顔を見つけて「変わらないな!」「君も全然変わらないよ!」と肩を抱き合う。
ジグジグ・スパトニックのニールXやジーザス・ジョーンズのメンバー。生年月日が全く同じのNOKOもいる。
お互い顔は少し痩けて髪には白いものが混じり、抱擁すると背中の厚みに過ぎた年月を感じる。
大切なゼマティスを譲ってくれた楽器会社の社長やあの日のパンク少女も今や紳士と淑女だ。
家族で二年半前に移住してから出会ったミュージシャンたちや音楽業界の友人たち。
インコグニートのブルーイやスウィングアウト・シスターズの二人、ギャング・オブ・フォーのアンディ・ギル、そして腕利きのスタジオ・ミュージシャンやエンジニア。
異国に暮らす同じ日本人の先輩や仲間達もたくさん駆けつけてくれた。
英国、フランス、ロシア、インド、アメリカ、スペイン、フィンランド、ドイツetc...etc..
国籍こそ違えど、皆ロンドンを愛すロンドナーだ。
この二年半でこんなにもたくさんの友人をこの街に持つことができたことが幸せで、ただ幸せで、
胸がいっぱいになった。
笑顔あふれる和やかなパーティーの途中、英国のマネージメントを担当してくれているアーロンの挨拶に続いて美樹さんが紹介される。
数日前、初めてのロンドン公演で英語でMCをすることをあれほど重荷に感じていた彼女が、はにかみながらゆっくりと英語で話し始めた。
「まずはみなさん、私の英語を大目にみてくださいね(笑)今日はみなさん忙しい中、HOTEIさんのパーティーに参加してくれてありがとう。みなさんのおかげでサプライズは大成功しました!こうして素晴らしい仲間に囲まれて嬉しそうにしているHOTEIさんを見て、私もとっても嬉しいです。みなさん、愛してるよ!HOTEIさん、愛してるよ!」
会場からの大きな拍手に笑顔で応える美樹さん。とても素敵なスピーチだった。
(美樹さん、あなたの英語はチャーミングですよ!)
誰もが自分が歳をとることが信じられないものだ。
大人になるのが少し照れ臭く、いくつになっても子供のままの自分が申し訳なく、
そして二度と戻らない季節の記憶を辿れば、切なく悲しい。
と同時に、あの日の自分より優しくなった自分が愛おしく、
全力で走り抜けた若き日々がヒリヒリと誇らしい。
53歳になった僕の目標を一言でいうと「健康第一」。
ロッカーが健康を気にするなんてカッコ悪い、と昔の自分なら言っただろう。
しかし今は違う。
「健康じゃなければ思いっきりロックもできないだろう?」
優しさが強さと感じさせる大人になりたい。
ワイルドなギターが優しく聞こえるギタリストになりたい。
いくつになっても少年のままの自分でありたい。
英国でご活躍なさっている川秀子さんによる奇跡のARTケーキ。
(All Photo by Kazuyo Horie / Thank you so much!!!)
最高のサプライズを企画、そして参加してれたみなさん、ありがとう!
日本からもたくさんのバースデーメッセージが届きました。
この場を借りて、「みなさん、ありがとう!!!」