そのあまりにも奇跡的かつ生々しい体験から現実に戻れぬまま英国に帰国して間もなく
Mick Jaggerの恋人のローレン・スコットさんの訃報を聞き愕然とする。
ブログにストーンズの事を書く、という気持ちにはなれなかった。
3月6日。
あの日、東京ドームの楽屋で初めて会ったMick Jaggerは溌剌としたエネルギーに満ちあふれていた。
伝説の唇を大きく開いて眩しい笑顔と共に和やかな挨拶を交わした後、
彼は突然チャック・レヴェルのエレピに合わせて目の前で腰をくねらせながら
共演曲の「Respectable」を歌いだしたのだった。
隣にいたロニー・ウッドがエアーギターでソロの場所を僕に合図する。
「次はホテイだ!」とロニーが言うと「いや、ここはキースに弾いてもらおう!」とミックが提案する。
ミックの楽屋で皆が踊りながら「Respectable!」と合唱していたことを誰が信じてくれるだろうか。
数十分後、ステージでサウンドチェックを兼ねたリハーサルが始まる。
キース・リチャードに会ったのはステージの上だった。ずっしりとした握手。深い眼差し。
アンプから突き刺さってくるギブソンの音。
佇まいからなにもかもがとてつもなく大きな存在だった。
チャーリー・ワッツは腕時計の皮のベルトを上品にはずし、軽快なジャズのビートを叩いていた。
キックを踏む足下は磨き上げられたコインローファーだった。
ミックは「Enjoy!楽しもうぜ!」僕の肩を叩いてくれた。
リハーサルでも彼はステップを止める事はなかった。
Show Time !
僕はステージの袖で彼らのショウを見せてもらった。
そしてミックに名前を呼ばれステージに向かう。
後ろにはチャーリーが。両隣りにはロニーとキースが。
そして目の前にはミック・ジャガーがいた。
ここからの話をするのはもう少し時間が経ってからにしよう。
僕のつたない文章でそれを伝えることは不可能だからだ。
5年後、10年後には言葉にできるかもしれない。
いつまでもできないかもしれない。
熱狂の東京ドームの翌日、僕はロンドンに戻った。
ギターを積んだ車を運転しスタジオ向かう。
アンプにプラグを差し、鳴らすギターはいつもと変わらぬ音だったけど、
ハートからつま弾く指先までの何かが変わった。
ギターが一段と愛おしく思えるのだった。
僕は毎日スタジオに通い、曲作りに励んでいる。
様々なミュージシャンとのジャムやセッションも積極的に行っている。
時にはギターを4本背中と両手に担いでセッションに向かう事もある。
ギターの弦を張り替えるのもずいぶん慣れてきた。
人のプレイにWow!と驚くのも楽しいし、誰かをWow!と驚かすのも楽しい。
日本にいる時はそんな当たり前のことを忘れかけていたような気がする。
まるでアマチュアに戻ったような気分だ。
今に見てろよ、という思いも含めて。
そしてついにモントルー・ジャズ・フェスティバルへの出演がアナウンスされた。
July 11, 2014
http://www.montreuxjazzfestival.com/en
このフェスに参加できることはミュージシャンとして大いなる名誉であると共に、プレッシャーでもある。
そしてもう一つ楽しみなのがCornbury Music Festivalだ。
大好きだった10ccやKid Creole,Simple MindsやSuzannne Vegaの名前と共に
ポスターに自分の名前が載ったのが嬉しい。
この2つの夏フェスは自分を試す大きなチャンスだと思って、精一杯のプレイをしたい。
ロンドンにも暗黒の冬が終わり、ようやく春が来た。
桜によく似たアーモンドや、八重桜の花びらが春風に舞踊る。
青空との花々のコントラストが美しい季節だ。
日々の想いと、ロンドンの風景をまた、少しずつここに綴ってゆこうと思う。
駄文は重々承知ながらも、読んで頂ければ幸いです。