THE ROLLING STONESからの招待状
もしもある日、君のメールボックスにローリングストーンズから
「俺たちのステージで一緒にプレイしないか?」
(The Rolling Stones have asked if you are in Tokyo and if you would want to come on stage and play a song with them one night? )
という招待状が届いたら、君はなんと言う?
そう、僕も君と同じ言葉を呟いた。
「嘘だろ...?」
しかしそれは嘘でも間違いでもなく、現実だった。
もしも君がギタリストなら、ローリンストーンズという伝説のモンスターバンドに呼ばれてギターを弾くことを想像してどう思う?
振り向けばチャーリー・ワッツがクールなビートを刻み、
右を向けばロニー・ウッドが、左を向けばキース・リチャーズがカミソリのようなギターをかき鳴らし、
そして目の前には髪を振り乱して踊りながらシャウトするミック・ジャガーがいる。
きっと想像しただけで鳥肌が立ち、天国にいるような気分になるはずだ。
僕も君と同じだ。
恐怖と恍惚の狭間で全身が痺れ、鳥肌が止まらなくなる。
2012年。
ロンドンに移り住み、初めて観たコンサートはストーンズの50周年アニバーサリーライブだった。
ロンドンで観るストーンズは英国の誇りと象徴そのもので、世界一のロックバンドであると共に高貴なジェントルマン達だった。
初日はジェフ・ベックが、2日目はエリック・クラプトンがスペシャルゲストとしてステージに登場しそれぞれの音色とフレーズを披露した。
まるでロックンロールという燃え盛る炎を暖炉に囲み、神々達が昔話に花を咲かせているような、美しい光景だった。
僕はコンサートグッズの長い列に並び、Tシャツとステッカーを買った。
翌日、ミニクーパーのトランクにステッカーを貼った。
2013年、夏。
僕と娘はハイドパークでデートをした。それは44年振りのストーンズのハイドパーク・コンサートだった。
Start me up!から軽快にスタートしたコンサート。太陽の下のロックンロールは最高だった。
ビートを抱いて踊り叫ぶ観衆を離れて、僕らは会場後方に設置された大きな観覧車に乗ることにした。
僕ら以外に乗車客はなく、係のお兄さんが気を利かせて僕らのゴンドラをてっぺんで停めてくれた。
うねるような何万もの観衆を見下ろして心地よい風を浴びながら、僕らは肩を組んでMiss Youのフレーズを口ずさんだ。
娘が「パパ、ストーンズのポスター買って」と言った。
その一言がなんだかとっても、無性に嬉しかった。その日の夕焼けと共に一生忘れないだろう。
僕はロンドンで文字通り一からのスタートを送っている。
KILL BILLのテーマ曲を知っていても僕の名前を知る人はほとんどいない。
人に会いに行き熱い想いを語り伝え、少しでも僕の存在に興味を持ってもらうしかない。
移住後、僕はロンドンで2度のコンサートを開いた。
2012年のライブは僕の音に対する気持ちの曖昧さが如実に出て、案の定あちこちのメディアから酷評を受けた。
しかし昨年11月に行ったライブは映像とのコンセプチュアルなアプローチが功を奏し、現地の音楽ファンやメディアからも絶賛された。
あの夜、ストーンズの関係者が客席にいたと聞いていたので
今回のストーンズからのオファーはあの一夜のライブの成功から繋がったものだと思う。
穏やかな小春日和の朝、僕はいつものようにステッカーを貼ったミニクーパーを運転しスタジオに向かい、曲作りをしていた。
ワールドワイドでのリリースがなかなか決まらぬ中、もがくような気持ちでギターを弾いていた最中に、関係者からのそのメールは届いた。
「誰にも内密に」とのストーンズからの言葉を守り、叫びたいような気持ちを抑えていたが家族には伝えた。
美樹さんは「あなたの奥さんであることは、本当にジェットコースターに乗っているようなものだわ!」と喜んでくれた。
娘に「パパはもの凄いバンドに招待されてギターを弾きに行くことになった」と言うと「誰?」。
「あのローリングストーンズだよ!」
「Oh my god...」
と目を丸くした後「私にもサインをもらってきてね」と微笑んだ。
そこからはまるで早回しのドキュメンタリー映画のようだった。
急いで航空券を手配し、グローブトロッターにあの時買ったベロマークのTシャツを何枚か入れ、
お気に入りのグリッター・ゴールドのテレキャスターを担いでヒースロー空港のヴァージン・アトランティックの窓口に走りこむ。
機内では興奮して一睡も出来なかった。じっとしていられず踊りだしたい気分だった。
そして僕はローリング・ストーンズに会うために、東京に帰ってきた。
「嘘だろ?」
と多くの方々が今も半信半疑でこの文を読んでいると思う。
なんでHOTEIがストーンズに?と思われても仕方ない。僕だってまだ信じられないのだから。
しかし皆さん、どうぞご寛容に「これもロックンロールのマジックなのだ」と
僕の『嘘のような幸運を』受け入れてやってほしい。
憧れのDavid Bowieや Roxy Musicに続いて、ローリング・ストーンズとの共演までも叶うなんて。
僕は世界一幸運なギタリストだ。
ありがとう。ロックの神様。
ありがとう。The Rolling Stones。
ギターと出会えてよかった。
Life is "WOW!!"