最新作「COME RAIN COME SHINE」についてお話ししましょう。
オリジナル・アルバムとしては「ギタリズムV」から約4年振りとなる本作は、アーチスト活動30周年アニバーサリー・イヤーを通して感じた様々な思いと共に綴った「布袋寅泰第二章」のスタートにふさわしい、最新にして最高の一枚に仕上がったと自負しています。
30周年では、僕のギタリスト、そしてソングライターとしての原点であるBOØWY、そして復興支援ライブで久しぶりに同じステージに上がった吉川くんとのCOMPLEX、ソロ・デビューアルバムのギタリズムから試行錯誤の繰り返しを経て現在のスタイルに至るまでの過程を、ギタープレイを通じて再確認することができました。それはこの「COME RAIN COME SHINE」に強く反映されていると思います。
今まで意識的に封印していたBOØWYの頃のような曲作りやサウンドアプローチなど、今改めて自然に受け入れることが出来たのも、30年後という長い年月を経たからこその原点回帰と言えるかもしれません。
インタビューではなかなかお話しする機会のない各曲に込めた想いや、ギタープレイ、サウンド、そしてレコーディング裏話などを書き連ねたいと思います。
2月6日にリリースされるアルバムを想像しながら、そしてお手元に届いた時には、曲を聴きながら楽しんでもらえますように。
それでは一曲目から御紹介しましょう。
1)Cutting Edge (作詞/いしわたり淳治)
この曲を一曲目選ぶには少し勇気が必要でした。というのも今作にはキャッチーなイントロやサビ、ワクワクするようなビートなどいわゆる万人ウケしそうな曲もたくさんある中、いきなり飛び出す難解な歌詞のリフレイン、抑揚をおさえたワンコード進行とリズムなど、言ってみれば少しマニアックな曲であえて選んだ理由は一つ。僕のギタースタイルを象徴するシャープな切れ味のカッティングからスタートしたい。これは前回のツアー中に心に決めていました。BOØWYの「BAD FEELING」やCOMPLEXの「二人のAnother Twilight」などの乾いたファインキーなカッティング・リフは、ギタリスト布袋の最大の特徴として皆さんの記憶に残っていることと思います。僕の職業はギタリスト。しかしテクニック的には決して上手いギタリストではない。かといって音に味があるタイプとも言い難い。オールド・スタイルの古き良き時代を感じさせるギタリストでもないし、評価しづらいギタリストだと思います。しかし独自のスタイルを持っているギタリストということだけは、皆さんに伝わっているのではないかと思っています。
14歳の時マーク・ボランのポスターを見て「カッコイイ!」という理由だけでギターを選び、今もそれだけの理由でギターを弾いています。ギターはカッコいいもの。それぞれの理由や解釈は違えど、これは万国共通どころか人類共通のものです!チューニングの仕方も知らなかった僕が初めて弾いたのは誰かの曲ではなく『Beat』でした。一番太い6弦を不器用に握ったピックで「ビン、ビン、ビン!」とリズムを刻んだとき、僕の心は踊りだしました。その後はビートルズやストーンズに始まって、ハードロックやプログレなど様々なレコードを聴きながらも、僕はいつもその音楽の中の踊りだしたくなるようなギターの音を探していました。高校生で黒人音楽と出会い、レイ・パーカーJr.やワー・ワー・ワトソン他、黒人のファンクギタリストに夢中になり、僕の理想のギタリスト像は「マーク・ボランのようなグラムな衣装で、黒人のようなファンキーなカッティングを、クラフトワークのビートをバックに踊りながら弾くギタリスト」という何とも奇妙なものでした!
この曲の使用ギターはおなじみの白黒幾何学模様の「HOTEIモデル」、ソロはサスティニアック搭載モデル。アンプは20年前にロンドンでQUEENのブライアン・メイのギターテックの方を通じて購入したマッチレス。今回このアンプは里帰りを果たしました。イントロからフィルインして躍動的なリズムが絡むところ、そしてリイントロ1分34秒の刀を振りかざすようなサンプル音が気に入っています。
ゲスト参加してくれたROXY MUSICのアンディ・マッケイ氏のサックス・ソロも聞き所。ジャズではない、ブルーズでもない、独特のアートな香り、そしてリリカルな旋律。そしてそこに絡むバッキングのワウを踏みながらのカッティングもお聞き逃しなく。
ソリッドでダイナミックなドラムは山木秀夫さん。ベースはアルバム全曲井上富雄くんが弾いてくれています。プログラミングは岸利至くん、福富幸宏さんが担当してくれました。
「言霊 Lives In My Words 愛を伝えに行こう 胸に仕舞い込んだ想いは叶うはずさ」いしわたりくんが紡いだ印象的なサビのフレーズが皆さんに何を伝えようとしたのか、謎解きをするように言葉とビートの絡み合いを楽しんでください。
2)嵐が丘(作詞/森雪之丞)
「夢を探しただけ 彷徨ううちに旅人と呼ばれていた そしてたどり着いたこの崖の上 どこにも道はない」森雪之丞さんからこの詞が届いた瞬間、特徴的なギターのアルペジオが風の音に変わった。イギリスの女流作家エミリー・ブロンテの長編小説のタイトルで知られる「嵐が丘」。人生は雨の日、晴れの日ばかりではない。時には嵐のような吹き飛ばされてしまいそうなほど激しい風に打たれる時もある。それでも風に向かって歩みを止めず前に進んでゆこう、というメッセージを力強く、そして繊細に森さんは描いてくれました。
ギターには様々な楽しみ方がありますが、このアルペジオもまたハマると奥深いものです。POLICEの「見つめていたい」のように、一度聴いたら耳から離れないフレーズはアルペジオならではのもの。80~90年代のNEW WAVEバンドには印象的なアルペジオのヒット曲がたくさんありました。僕はこの頃の音楽に大きな影響を受けています。今回のアルバムはノンコンセプトでありながらも、どこかあの頃のNEW WAVEサウンドが基調になっているかもしれません。
この曲も基本は「HOTEIモデル」、ソロはフェンダーのJEFF BECKモデルです。曲作りの段階でどのギターを選ぶかでアルバムのカラーは決まります。今回は自分の持ち味を最大限に生かしたいという理由から、ほとんどの曲を「HOTEIモデル」で作りました。このギターはテレキャスターの形をしていますが、非常に独特なサウンドを持っています。ピックアップは倍音成分を増幅する特性を持ち、カッティングやアルペジオには最適です。あまり歪ませ過ぎず、一音一音の粒を際立たせるように弾くのがコツ。
この曲を作った時の気持ちはBOØWYのラストアルバム「サイコパス」を作っていた時の気持ちにとてもよく似ていました。なぜだろう?と自分でも思うのですが、30周年や渡英を含め、今までの自分を断ち切って、たとえそれが道なき荒野であろうとも夢に向かって進むしかない、という決意からでしょうか。
サビの「さらば愛しき日々よ 心燃やした恋よ 語り明かした友よ 思い出に背を向けて」の部分はレコーディングで歌っていて胸を熱くするフレーズでした。森さんは作詞の時点で僕がももいろクローバーZに提供した曲が「サラバ、愛しき悲しみたちよ」という歌詞になったことを知りませんでした。奇妙なシンクロニシティですね。「さらば青春の光」と合わせると「さらば三部作?」となりましたが、僕はこの歌詞がとっても気に入っています。皆さんにも是非熱く歌ってもらいたいと思います。胸がぐっと震える曲です。
3)Don't Give Up!(作詞/いしわたり淳治)
先行シングルのアルバム・ミックス。シングルより音がワイドになっているのを感じてもらえると思います。
今回のアルバムのMIXは全曲、今井邦彦さんに手がけてもらいました。当初は英国のエンジニアも候補に挙がっていましたが、日本語の繊細なニュアンスを伝える為にも、布袋サウンドの良き理解者でもある今井さんにお任せして良かったと思います。外人のエンジニアと仕事をして一番難しいのは日本語のセンテンスを伝えること。同じ日本人同士でも難しいのですから、彼らに理解しろという方が無理な注文です。
今回のアルバムは渡英前の東京でリズム・トラックを、そしてロンドンでギターやストリングス、コーラス、サックスなどのレコーディングが行われました。Metropolis StudiosのSam Wheatというエンジニアとは初めてのセッションでしたが、非常に真面目な好青年で、和やかでクリエイティブなレコーディングとなりました。僕の音楽はキル・ビルのテーマ曲しか知らず(といっても英国でもほとんどの人がこの曲を知っていることはとても嬉しいことです!)僕の要求に応えようとマイク選びからセッティングまで努力を惜しまず頑張ってくれました。
この曲はゼマティスのメタルトップ、ソロはサスティニアックです。最近ではヘヴィな歪みの多いサウンドを求める時は、ほとんどメタルトップを使用しています。バランスの良いギターで、歪ませてもビートの粒が消えません。テレキャス、ストラト、ゼマティスの3本があれば、自分のすべてを表現できると思っています。
4)Never Say Goodbye(作詞/布袋寅泰)
「大切な人との別れ。しかし心と心は永遠に繋がっている」別れをテーマに書いた久しぶりのラブソングです。高校をドロップアウトして、プロのミュージシャンになるという夢を叶える為に、故郷の群馬から上京した時の思いと、昨年、東京からロンドンに向かって出発する時の思いは、とてもよく似ていました。自ら何かを断ち切るように別れを選ぶ。何かがスタートするときは、何かが終わるときでもあります。
シンプルなメロディを活かすため、なるべく装飾的なアレンジを排除しました。ドラムはあらきゆうこさん。モダンと王道のバランスが素晴らしい彼女のドラミングが、淡々としていながらも沸き上がる情感をとてもよく表現してくれました。
シンプルなゼマティスの刻みはOKテイクの歪み加減がどうしても気に入らず、何度も録音し直しました。暗すぎず、そして乾き過ぎず、胸の温度感をイメージすればするほどその音を出すのは難しく、このアルバムで一番手こずった曲かも知れません。
美しいストリングスは古き友人であるサイモン・ヘイル氏のアレンジのもと、久しぶりにアビイ・ロード・スタジオで録音しました。アビイ・ロードには住んでいたこともあるので懐かしかった。以前アシスタント・エンジニアだった人が立派なメイン・エンジニアとなり録音に参加してくれたのが嬉しかったです。ロンドンのストリングスは相変わらず素晴らしく、この曲の色彩を深めてくれました。
このアルバムの中でも最も好きな曲のひとつです。
5)Come Rain Come Shine(作詞/岩里祐穂)
タイトル曲の「Come Rain Come Shine」。Jazzのスタンダードにも『Come Rain or Come Shine』という曲があります。直訳すると「降っても晴れても」という意味になりますが、「どんな時も」と大きな意味で使われる言葉のようです。
「ロンドンは天気が悪い」という印象をお持ちの方も多いと思いますが、確かによく雨は降るし曇り空も多いけど、一日中じとじとと降る雨はなく、雨のあとには必ず気持ちのよい青空が広がります。一日の天気予報も「雨のち晴れのち雲、のち雨のちところにより雷、霧」と、一日のうちにすべての天候が表示されることもあります。今回のアルバム・ジャケットの写真はロンドン在住の元プラスチックスで活躍なさっていたチカさんのお家の屋上をお借りして、アートディレクター兼カメラマンの永石勝さんに撮影してもらったものです。この日の空も白い雲と雨雲が青空に同居するコントラストがとてもロンドンらしく、まさにタイトル通りのジャケットが生まれました。
ニュー・オーダーやOMDなどにも通ずるNEW WAVE、エレポップ風サウンドの核になったのは、あらきゆうこさんのストイックなドラムです。初期のドラムマシーンは無機質ななかにもどこか温もりがありました。彼女のドラムはいつもヒューマンな体温を感じます。ギターは「HOTEIモデル」この曲でもアンディ・マッケイ氏のサックスが色彩を放ちます。青空をゆったりと雲が泳いでゆくような、そう、ROXY MUSICの名作「AVALON」の世界観です。当初ギターソロだった箇所に岩里さんが歌詞を書いてしまったので歌ってみたら意外に面白く、初めての歌詞付きのギターソロが生まれました。
僕はこの曲をヘッドフォンで聴きながら朝ジョギングするのが好きです。軽やかな気持ちで一日をスタートできるのです。皆さんもどうぞお試しになってみてください。
6)My Ordinary Days(作詞/森雪之丞)
生涯のマイ・フェイバリット・アルバムと訊かれたら、高校生の頃からの愛聴版である10ccの「How Dare You! / びっくり電話」と答えます。中でも「I Wanna Rule the World」や「Don't Hang Up」などの、めくるめく展開が繰り広げられる曲には首ったけでした。演劇的で、どことなくユーモラスでスラップスティック、それでいてキュンと泣けるメロがある。僕の音楽はきっと一般的にビートの効いたアグレッシヴで男臭いイメージでとらえられていると思います。実際そういった部分をあえてデフォルメして表現してきたところもあり、それはそれで誤解でも間違いでもないのですが、この「My Ordinary Days」のような曲をいつか作りたい!とずっと思っていました。今回この曲を作れたのは、森雪之丞さんの長年の夢であったロックオペラ「サイケデリック・ペイン」という舞台作品の音楽を担当させてもらったおかげかもしれません。いつもの音楽制作過程とは全く違う、脚本の中のストーリーや登場人物、そして台詞に合わせて曲を作るという作業はとてつもなく大変なものでしたが、同時にとても刺激的なものでした。初のミュージカル音楽を楽しみながら書けたのは、中高生の頃夢中になった10ccやキンクス、QUEENやスパークスといった、シアトリカルな要素を取り入れたバンドを聴いてきたからでしょう。
この曲に歌詞をつけるのは作詞家にとっても大変な作業だったと思いますが、そこはさすが森雪之丞さん。「大好物だよ!」と言って快く引き受けてくれました。「アンティークの目覚ましは週に3度 ...壊れる」という森さんならではの印象的なフレーズからスタートするこの曲は、いくつものパートがコラージュのように折り重なって進行します。リズムもツービートからワルツに、スローな幻想的なシーンから徐々にテンポアップして行き着くエンディングはサーカスの音楽をイメージして作りました。歌詞の中に登場するリスは僕の暮らすロンドンの家にときおり顔を出すかわいいリスです。
人々は様々なストーリーと共に、川のように流れてゆく人生を紡いでいる。楽しく、切ない素敵な曲です。
7)Daisy(作詞/いしわたり淳治)
コケティッシュな雰囲気のこの曲もまた、CARSやスクイーズなど、僕の愛したNEW WAVEバンドの匂いを散りばめた楽しい曲です。いしわたりくんとの詞の打ち合わせの際、主人公は「少女」、追いかけてもスルリとかわされる、天使のような笑顔で時をかける、不思議な少女の物語にしよう、と決めました。そして彼が作り上げたのがこの「Daisy」という女の子。
はじめのデモテープではBメロもサビもストレートな8ビートでしたが少し単調な気がしたので、思い切ってBメロをワルツに、サビを半分のテンポに落としました。結果的にとても不思議で斬新な仕上がりとなりました。時には大胆な発想も必要だということを再確認することができました。
ドラムは山木秀夫さん。日本最高峰のドラマーでありながらも、レコーディングではいくつもの種類のスネアを試してくれたり、プレイに関しても音に関しても決して妥協しない姿勢から多くのことを学ばせてもらいました。最近はデジタルレコーディングの利点を活かし、時間や予算を考えての効率的なレコーディングが主流となりましたが、スタジオは我々ミュージシャンにとって最高の修行の場です。いい音を出すには、いい音を録音するには、そしてそれを再生するには、技術や知識や感性、そしてなにより努力が必要です。
ギターは「HOTEIモデル」、歪ませても歪まないこのギターならではのビートサウンドです。
8)Higher(作詞/森雪之丞)
ギターキッズがまずコピーしたくなるのがこの曲ではないでしょうか?何故ならそれを狙って作った曲だからです(笑)。AC/DCのようなハードロックの王道リフに、モダンなサンプルやダンサブルなビートを絡めたこの曲はライブに映える曲でしょう。
2弦3弦4弦を開放ポジションから人差し指と薬指で3フレット、5フレットで押さえ、ブリングオフする。シンプルなリフですが、僕はこれに親指で6弦を押さえて低弦の響きを加え、さらにへヴィーなリフに仕上げました。リフの合間をしっかりミュートしてブレイクを作ることで、LED ZEPPELINのようなムードが出たと思います。
ここでもギターのディストーションの歪み具合がポイントで、あまり歪ませすぎると音と音が繋がってしまい古くさく感じてしまいます。もちろん好みにもよりますが、歪みは極力抑えた方がプレイのニュアンスや、プレイヤーの感情が伝わると僕は思っています。
ドラムは村石雅行さん。ハードロックの王道感を活かしつつ、シンプルかつモダンに叩いてほしい、と細かいフィルのニュアンスまで僕の意見を聞き入れてくれました。このアルバムは山木さん、あらきさん、村石さんという、個性溢れる実力派ドラマー3人に参加してもらいました。打ち込みのビートも好きですが、生ドラムのシュミレーションには飽きたというのも正直なところ。やはりドラムは生がいいですね。
バンドにおいてドラマーの存在は最も大切だと言うことは言うまでもありません。僕のようなリズムが命のギタリストにとって、誰と組むかによってプレイも大きく変わります。
2013年の全国ツアーでは、先日10年振りの作品を発表したDAVID BOWIEのアルバムに全面参加したザッカリー・アルフォードが帰ってきてくれます。ザックの叩くこの「Higher」がどんなGrooveになるのか、今からとっても楽しみです
9)Stand Up(作詞/布袋寅泰)
日頃ふとした瞬間にリフを思いつくことがあります。そんな時は携帯電話の録音機能を使いこっそり小声で録音するのですが、後に聴いても半分以上は使い物になりません。この「Stand Up」もリフから出来た曲です。頭の中でリフが鳴り、徐々にバンドサウンドが重なってGrooveしてくると、思わず「カッコイイ!」とにんまりしてしまうのですが、端から見れば単なる気持ちの悪い人ですね。
歌詞は僕。いつもながらボキャブラリーの少ない、体温の高い歌詞ですが、リフを弾きながらシャウトして気持ちいい言葉だけを選んだつもりです。
Bメロの「誇りがあれば 傷だらけでいい 誰にも負けない 強さが欲しい 心の奥で 燃え盛る炎 解き放て」は僕の心に燃える炎の証。うつむきがちな毎日で、この曲を聴いて少しでも気持ちがStand up!してくれる人がいれば、作者冥利に尽きます。
10)Rock'n Roll Revolution(作詞/布袋寅泰)
ツアータイトルにもなったこの曲もまたシンプルなリフから作り上げた曲です。リフには単音のメロディから作られたもの(The Rolling StonesのサティスファクションやLed ZeppelinのBlack Dog、Lenny KravitzのAre you gonna go my wayなど)と、コードワークから作られたもの(キンクスのYou really got meやDeep PurpleのSmoke on the waterなど)がありますが、この曲は後者。いつもならフェンダーのテレキャスターで弾くところですが、今回は少し暴れた感じの音にしたくて、あえてストラトキャスターを選びました。
ギターソロはリズム録りの時に弾いた一発もの。アルバムの中で一番ワイルドなソロかもしれません。普段レコーディングではソロのパートをアドリブからスタートし、しっくりくるフレーズを選びます。何度聴いても飽きない、ギターソロも一緒に歌えるような曲の一部としてのソロを完成させるよう心がけています。一度フレーズが決まると完成させるまで何時間も同じソロを弾いていることがあります。そうなるとスタジオの誰も声をかけられません。聴いている人にはきっと同じソロに聞こえるでしょうが、僕は弦とピックの当たり方や、ちょっとした音の処理、入り口のスリル感や終わりの長さなど、病的なまでにこだわってしまいます。僕のいいところでもあり、悪いところでもあるのかな。最近の曲はほとんどギターソロなど入っていないものが多いですね。「誰も弾かぬなら俺が弾く!」ではないですが、ギターソロならではの開放感を皆さんに味わってもらいたいと思っています。
11)Dream Again(作詞/岩里祐穂)
作詞家の岩里さんとは今井美樹の「Miss you」が最初の出会い。最近ではももクロの「サラバ、愛しき悲しみたちよ」で久しぶりに御一緒させていただきました。美しい静かな言葉に深い情熱を感じさせる彼女の詞は、遠い景色の向こうに見える様々な感情を呼び起こさせてくれます。
30周年アニバーサリーイヤーではBOØWYの「DREAMIN'」をオーディエンスの皆さんと一緒に歌わせてもらいました。ステージから見る客席の笑顔にはきっと、それぞれが戦ってきた様々な思いが込められていたと思います。
20代初め、夢だけを追いかけて生きていたあの頃。その後いくつもの夢を叶え、またいくつもの葛藤や挫折を繰り返し、僕はこうして50歳という年を迎えました。人生の後半を迎えた今「俺は今も夢を追いかけているか?」と自分に問いかけたことがきっかけで、昨年の渡英に繋がったような気がします。
すべての夢が叶うものではない。現実との狭間で、夢ばかりを追いかけて生きてゆくのは簡単なことではない。しかし、自分が自分らしくあるがために、夢は決して捨ててはいけない。この曲はすべての夢追い人に贈る静かなる応援歌です
ストラトの澄んだ音と、暖かいストリングスが抱きしめ合うように奏でる夢の歌。
「時は流れて今でも胸の炎絶やさずに あの日の憧れを追いかけているかい」胸を熱くする素敵な詞をプレゼントしてくれた岩里さんに心から感謝しています。
12)Promise(作詞/布袋寅泰)
この曲は東日本大震災が起こった後「この悲しみに向けて自分はミュージシャンとしてなにが出来るか」と、自分に問うことから生まれた曲です。自分にとっては3.11の象徴的な曲であるがゆえに、このアルバムに入れることを当初はためらったのですが、最後にこうして並べてみると「このアルバムはこの曲を生んだ時からスタートしていたのだ」と思えるほどエンディングにふさわしい曲となりました。
ミュージシャンという道を選びこうして生きている自分の願いは、音楽を通して聴く人の心を少しでも前向きに、元気にさせることです。僕も人生において苦しい時も嬉しい時も、いつも音楽に支えられ、助けられ、勇気づけられてきました。音楽に対する恩返しをしなければなりません。
心のこもった魂の音楽を作り、奏で、伝えてゆくことが、僕と僕の音楽を聴いてくださる皆さんとの「約束」だと思っています。
この「COME RAIN COME SHINE」が、たくさんの皆さんの元に届きますように。
降り止まぬ雨はない。皆さんの明日が、光り輝く日となりますように。
布袋 寅泰