ブライアンと一緒に
ジェフ・ベックを観に国際フォーラムへ。
客席で二人並んで座り、ジェフのステージを観るなんて夢のようだ。
ジェフの変幻自在なスペイシー且つ繊細な超人的ギターは健在どころか更に磨きがかかり、
もはや神業としか形容のしようがない。
ブライアンとため息をもらしながら、クリスタルのようなギターサウンドに酔いしれた。
バンドもタイトで奥行きのある素晴らしい演奏で音宇宙を紡ぐ。
今回の来日メンバーで特筆すべきは紅一点の若干23歳のベーシスト、
タル・ウィルケンフェルドの存在だ。
150数センチのその愛くるしい佇まいから想像もできないような強烈なグルーヴをはじき出す。
的確なテクニックと、しなやかなリズム。
『天才』とは彼女の為にある言葉だと思う。
中高生の頃、狂ったように聴いた『Blow By Blow』や『ワイアード』からの選曲が懐かしい。
後で聞くと、ブライアンもこの二枚はすり切れるほど聴いたそうだ。
前日のブライアン、そして目の前のジェフ・ベックのギターを聴きながら、自分のギターのお粗末さが情けなく恥ずかしい。
彼らの磨き抜かれた技と比べたら、俺のギターなぞ子供の遊びで、足元にも及ばない。
客席から見つめる伝説の人のシルエットは、俺を完全にギターキッズに戻らせてくれた。
人生に憧れの人がいるということは、幸せなことだ。
最後のアンコール曲の途中でブライアンと楽屋へ。
ステージ脇でバンドの帰りを待つ。
メンバーと肩を組んで幸せそうに、満面の笑顔でジェフが戻ってくる。
ブライアンを見つけ「Hey!!! Brian!!!」とハグ。
ブライアンに紹介してもらい、ジェフ・ベックとの初めての握手。
ガッチリと力強いその手から、あの奇跡の音たちが生まれる。
感動の初対面だった。
楽屋で着替えをすませたジェフが両手にシャンパンを2本握って我々に振る舞ってくれる。
ジェフとタルにギタリズムVを渡す。
彼らはお祖父ちゃんと孫くらいの年齢差があるのに、まるで兄妹のようにジャレ合っている。
楽屋のロビーでシャンパンを飲みながら一時間くらい話しただろうか?
「ホテルで飲まないか?」とジェフ。
みんな揃ってジェフの滞在するホテルのバーへ。
バーの周りのお客さんが、思いもよらぬギタリスト3人衆の登場に目を丸くしている。
それはそうだ。俺だって信じられないよ!
ジェフと俺はモヒートを、ブライアンはいつものようにマッカラン(チェイサーはビール!)を頼み乾杯。
ギターの話に始まって、車の話になるとヒートアップ。
ブライアンもジェフも
HOT RODと呼ばれるカスタムカーの愛好家だ。
ジェフは車の修理中大けがを追った事があるらしく、その時の傷を見せてくれた。
「処置が遅ければギターが弾けなくなるとこだったよ!」と舌を出し笑うジェフ。
エルビス、エディ・コクラン、ジーン・ヴィンセントetc...。
ロックンロール談義は止まらない。
マイルス・デイヴィスと並び、宇宙の域まで達したジェフも、大のロックンロール・フリークだということが嬉しい。
ブライアンと奥さんのジュリー、セッツアー・オーケストラのもう一人のコーラスガールのレズリーが、懐かしいDOO WOPのナンバーを歌いだす。
「そこのハーモニーはEmイレブンだ」とブライアン。
一人ずつ音を割り当てて和音を作る。
ジェフや俺も加わり大合唱となる。
「俺たちにカラオケはいらないね!」と皆で大笑い。
ステージの後だというのにジェフは疲れた様子もなく、モヒートを飲む。
その日の食事は昼間のサンドイッチだけだというから驚きだ。
ブライアンも夕食は摂らず「俺たちに必要なのはガソリンだ!」と言ってはマッカランを飲み干す。
なんとワイルドな大人たち!
ポールマッカートニーがまた再婚するらしい(?)、とか、ロッドスチュワートに会ったときの㊙話とか、ヤードバーズ時代に使ってたギターの意外な行方とか、ここでは書いてはいけない話(笑)が次々と飛び出し、皆大興奮!
次の日は二人ともギグだというのに、結局夜中の一時過ぎまで楽しいパーティーは続いた。
ジェフは少し気難しい人というイメージを勝手に描いていたけど、実際は気さくでユーモアに溢れ、そして知的でお洒落な紳士であった。それは嬉しい驚きだった。
本当に本当に素晴らしい人だった。
夢のような一夜の記憶もさめぬまま、ジンガロに御一緒する約束の
石川セリさんとの待ち合わせ場所のホテルのロビーに足を踏み入れると
目の前に見慣れた顔が...。
「HEY!ホテイ!久しぶり!元気だったかい?」手を差し出したその人は、
エリック・クラプトンだった。
東京はギタリストだらけだ!